Beautiful morning with you.<キミを探して>
|
いずみは何か事があるたびに、課長と共にコソコソと部屋を抜け出し、人気の少ない屋上で密談しているようだ。 ふたりの様子が怪しいと思った俺は、こっそり二人の後をつけることにした。非常階段を上り、屋上への出口まで来ると、二人の話し声が聞こえてきた。 俺は身を隠し、二人の会話に耳を側立てた。 「では、□☆出版との契約はそのままでいいのですね?」と課長の声。 すると、それに返事するかのように「ああ、そうだ。明日までに頼む」といずみの声がした。 明らかにハチャメチャな会話だった。 課の人間をまとめる課長がお伺いを立て、平社員であるいずみがそれに返答しているのだ。いや、それよりなんだ二人の喋り方は。課長はともかく、いずみのほうはまるで別人のようじゃないか。 「・・・」 いちおう確認しようと、顔だけをだし、視覚的に二人の様子を確認するが、間違いなくそこにいるのはいずみと課長だった。ライトベージュのパンツスーツを着たいずみは壁に背をつけ、腕組みをしており、濃紺の紳士スーツ姿の課長はすぐ近くで、いずみの化粧ポーチを手にして立っている。先ほどの会話を聞いたせいかもしれないが、二人の立場はまるで反対、逆転しているように見える。二人のことを知らない第三者が見れば、五十歳を迎えた中年サラリーマンより、二十五歳のOLのほうが偉そうな態度をとっているように見えただろう。 だが、そのあと目を疑いたくなるような出来事が起こった。 「それより、それを頼む」 腕組みしていたいずみが、そう言うと、課長は「はい」と答えて、化粧ポーチからコンパクトと口紅を取りだした。いずみは壁から背を離すと、課長の前に立ち、自分の顔を突きだしたのだ。まるで、課長に化粧を施してもらおうとする格好だ。 俺は、ゴクッと生つばを飲み込み、二人の奇妙なやり取りを見守った。 課長はコンパクトを広げると、小さなチークブラシを取りだし、いずみの頬にほお紅を塗りだした。 「なぜ、何故課長が・・・」俺には、何が何だかわからなかった。 それだけ理解に苦しむ光景だった。 最近、白髪が目立ち始めた島崎課長は、この会社に三十年近くも勤めてきた人で、小さかったこの会社をここまで大きくした功労者のひとりだ。苦労した経験からか、下のものへの面倒見もよく、営業部でとても人気が高い。実際、俺といずみが結婚を考え出した時、仲人をしてもらうなら、ぜひ島崎課長にやってもらいたいと考えていたほどだ。それだけ人望厚い人であることは認識していたが、いずみの化粧をなんで課長がしているのだ。 させている、いずみもいずみである。 なのにいずみと来たら、「自分でもやってみたんだが、なかなか上手くいかなくて」と苦笑いを浮かべている。課長も課長で、「仕方ないですよ」だなんて言いながら、いずみの頬に丁寧にほお紅を塗っている。 「じゃあ、次は口紅塗ります。目だけ閉じてて下さい」 課長はほお紅を塗り終えると、今度は口紅を手に取り、中からクイッとひねり出した。 「ああ、すまん」 いずみはそう言うと、今度は唇をつきだし、ギュッと目をつぶった。 今度は、口紅までも塗らせるつもりなのだ。 あまりにも奇妙な光景。とてもみてられない。 |
次の中から、ひとつを選択しクリックしてください。 >黙ってその場を去る。 >でていって、二人に何をしているのかと尋ねる。 |