四人怪談

                               作:英明

「あ〜、つまんねえ」
哲雄のつぶやきに、
「そうね、海も飽きちゃったし」
由貴が応える。
「なんか面白い事ねえのかよ」
「そんな事言ったって、ゲーセンで遊ぶお金もないんでしょ」
「ああ、期末試験は、最悪だったからなあ。
小遣いもせびれねえや。その点、翔、お前はいいよなあ」
「まあな。でも、金はない。裕福じゃあないからなあ、うちは」
俺の言葉に、ため息をつきながら、哲雄はつぶやく。
「それにしても退屈だ」

 期末試験も終わって、後は夏休みを待つだけの金曜の午後、
俺と哲雄、由貴、それに香奈枝は、
コンビニの駐車場で暇を持て余していた。
せかせかと前を通りすぎる大人たちにとっては、
うらやましい限りだろうが、俺たちは俺たちで、
未来が見えない不安の中で日々をどうすごせば良いのか、
わからないイラツキを感じていた。
 まあ取り敢えず、高一の夏を楽しもうというのが、俺たちの結論である。
俺たち四人は家庭環境も性格も学力も違うが、なぜか気が合い、
いつも四人で行動を共にしていた。詳しくは語らないが、
それぞれに悩みを抱えているようだ。
そういった雰囲気が呼び合うのかもしれない。
一応、俺と香奈枝、哲雄と由貴が付き合う形となっている。


「ねえ、やっぱり夏といえば、怪談よねえ」
今まで、黙っていた香奈枝が、突然声をあげる。
「怪談か、おもしれえな。で何をするんだ?」
「相変わらず、何も考えないやつぅ!何をするのかも知らないで!」
鋭く、由貴が突っ込みを入れる。
「ごめん、あたしも考えてないんだ。翔、何かない?」
「うん、そうだな。百物語をするか?」
「百物語というと、百の怪談話をして、全ての話が終わると、
霊や妖怪が集まってくるというやつぅ?」
「香奈枝、説明的セリフ、ありがとう!」
「俺、全然、怪談話なんて知らないぜ」
「それに、百話もなんて、時間がかかってしょうがないわよ!」
「ん〜、じゃあ、あれをやるか」
「おお、やるのかあれを!」
「また、哲ったらあ!で、あれって何よ?」
「うん、聞いたこともあるかもしれないけど、
部屋を暗くして、四人が四隅に立つんだ。
で、誰からでも良いんだけど、壁づたいに他の隅に向かって歩くんだ。
そして、そうすると、隅に立っている者にぶつかるだろ。
そこでタッチをして、タッチされた者は、
もう一方の隅に向かって歩いていくんだ。
こうして、タッチしては歩くを繰り返しているうちに、
霊が現れると言われているんだ。
歩く方向は、時計の針と反対周りらしい」
「おお、いいじゃん、それやろう!」
「うふ、哲雄ったら単純ね。良く考えてみなさいよ。
最初は確かに四隅にいるけど、四人目が向かう隅には、
最初の人は移動してしまって、もういないわよ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥おお!、そうかっ」
「哲、おそ〜い!」
「ははは、だから、四人目がもしタッチできたら、
それが霊ということになるんだ」
「きゃっ、それおもしろそう!でも、私は嫌よ、四人目は」
「よしっ、任せとけ!でも、ほんとにお化けが出たら、ど〜う〜す〜る〜ぅ」
「キャーッ、おどかさないでよぉ!」
「おめえの声のほうが、怖えよ」
「で、場所はどうする?」
「そりゃあ、怪談て言ったら、学校よねえ」
「よし、今夜9時、西門に集合、決行場所は家庭科室だな。
よけいなモノが置いてないから」
「おっ、お前にしては、決断が早いな」
「作者の都合だろう、それより、ライトを忘れるなよ」
「おう。ふふふ、ワクワクするぜ」




「遅いわよ、哲。みんな待ってるわよ」
「おう、悪い、悪い‥‥って、まだ、8時50分じゃねえか」
「うふふ、みんな怖いモノ見たさで、早く来ちゃったみたいね」
「いや、あたし怖いわ」
「ふ、由貴、お前が一番早く来たくせに」
「あ、ばらしちゃダメ」
「けっ、俺たちに猫かぶったってしょうがねえだろ。
それより、翔、セキュリティには引っかからねえのか?」
「ああ、あのあと細工しておいたからな。さ、こっちだ」
俺たちは給湯室のドアから、家庭科室へ向かった。
さすがに夜の校舎は不気味だ。
いろいろな怪談話が存在するのもわかる気がする。

「着いたぞ。電気は点けるなよ」
用意したライトを点ける。黒いフィルムを貼りつけ、光度を落としてある。
「あ、その机は邪魔だな」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥素早く準備を済ませ、歩く順番を決めた。
俺、香奈枝、由貴、そして、哲雄の順だ。
やはり幽霊と接触する可能性があるのは、1番と4番だ。

「よし、準備オッケー!香奈枝、いいか?」
「え、ええ」
少し、声が震えている。そこがまた可愛い。
「じゃあ、ライトを消すぞ」
〈パチ〉

闇に包まれる。暗い闇がのしかかる。闇と静寂が俺達を圧迫する。
それだけか?何か別の気配が‥‥‥いや、気のせいか?
「じゃあ、い、行くぞ、あっ!」
「お、おい、どうしたっ!」
「う、うん、何でもない。ちょっと押された気がしたんだが、気のせいだろう」
「馬鹿野郎、おどかすな」
「すまん」
気のせい、気のせい‥‥‥とにかく、歩くんだ。歩く、歩く‥‥
やけに長いな。おい長すぎるぞ!と思った瞬間、手が香奈枝の背中に触れた。
声を立てずに、すっと言う感じで、香奈枝が歩き出す。
その時感じた、違和感。今の、本当に今のは香奈枝か?‥‥‥


「きゃ、香奈枝ったら、いきなり来るんだもん」
ほっ、なんだ、気のせいか。
それにしても、俺、情けないなあ。ひとりでビクビクしている。

「お、来たな、いよいよ俺の番か」
‥‥‥‥これで、哲雄が壁にぶつかれば終わりだ。‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥静寂と闇‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
‥‥永遠に続く?静寂を破ったのは、
「あっ!」
哲雄の声だった。

「身体が‥‥
ある〜
「おい、冗談はよせ!」
「きゃーー!」
「と、とにかくライトを!」
と、その瞬間、
〈ドタドタドタドタ〉
「こらーっ!おまえら、そこで何しとるか〜!」
メガホンだ!生活指導の佐々木の声だ。
メガホンというのは、地声が大きいので付いたあだ名だ。
別に目が本になっているわけではない。
 おっと、冷静に解説している場合ではない。
「逃げるんだ」
必死に逃げる。逃げる。
メガホンのおかげで心霊恐怖から我に返ることが出来た、
「待て〜い、おまえら」
 待てと言われて待つ奴はいねえよなどと
突っ込みを入れながらも、必死で逃げる。
恐怖からか身体の動きがおかしい。なかなか早く走れない。
それでも、徐々にメガホンの声は遠ざかっていった。



「ふう、ここまで来れば、大丈夫だろう。みんないるか?」
と俺の声。ん?
 とにかくみんながいるか確認だ。
由貴に哲雄に俺に俺、ちゃんと4人て、おい、何で俺が二人いるんだ?
「きゃー、あたしがいるぅ」
哲雄が変な声をあげている。は!香奈枝がいない!
「お前、だれだ?」
俺が、哲雄につかみかかっている?‥‥‥‥‥‥‥


「こんなことって?」
「信じられねえ」
 確かに、信じられないことが起こっていた。
俺が香奈枝になっていて、香奈枝は由貴に、
由貴は哲雄に、哲雄は俺になっていた。
つまり、家庭科室で背中を触れた者に変身してしまったらしい。
 あの時、確かに、誰かが俺を押したのだ。
その時、俺は、俺の精神が身体から離れ(幽体離脱と言うのかな)
香奈枝に精神だけが向かっていき、香奈枝の身体に入り込んだと考えられる。
そして、ところてん方式に、次々と幽体離脱していき、
哲雄の精神が俺の身体にぶつかったというわけ‥‥だろう。




「遅い。もう待ちくたびれたよ」
「おう、悪い。でも、怒った香奈枝の顔も可愛いよ」
「もう、ふざけるなよ。それより、早く行こうぜ」
「ああ、それより、今日のお前、ばっちり決まってるな」
「今日はお前との初めてのデートだから、ちょっとはおめかししたんだぜ」
「かわいいぜ、でも、まさか、お前とデートすることになるとはな、翔」
「もうその名前で呼ばない約束だろ」
「それなら、おまえこそ、女らしい話し方しろよ。たとえば‥‥」
「きゃっ」
「きゃっだって、かわいい!」
「ばか、お前が変なとこさわるから」


 ‥‥‥‥あれから、一月以上が過ぎ、もう夏休みも終わろうとしている。
あのあと、自分の身体を調べたり、これからのことを話し合ったり、
それはもう大変だった(特に、俺と由貴は異性になってしまったのだから)。
 もちろん、元に戻ろうと、何度か家庭科室で試してみたが、何も起こらなかった。
それで、仕方なく今の身体に合った生活をすることにした。
もちろん、すんなり他人になりきれるわけもなく、とまどいや失敗もあったし、
今までの生活や家族、失うモノも多かった。けれど、仲間がいて、それを補ってくれる。
それに、俺の場合、香奈枝だ。香奈枝はかなりの美人でスタイルも良い。
そして、性的快感は男だったときより、比べものにならないくらい大きい。
でも、生理痛は勘弁して欲しい。
 由貴は最初、泣いてばかりだったが、
今ではしっかり順応して、男性生活を楽しんでいるようだ。
 俺達4人は、以前に増して親密になったが、個々の関係は変化している。
俺について言うと、俺と香奈枝は、身体は香奈枝と由貴なので
女の親友という感じになってきている。
 最初、香奈枝に恋人関係はやめにしましょうと言われたときはショックだったが、
それも仕方ないと思った。
 そして、俺と哲雄の関係も‥‥‥。
時々、哲雄(身体は俺)にときめいてしまう自分に、戸惑っている。
そういえば、最近、抵抗なく自分のことを「わたし」と言えるようになったし、
仕草や考え方も今までとは違ってきている。
 そう、それぞれが、今の自分の身体に適応しはじめているのだ。
新しい身体で生きていく以上、今までの自分にこだわっても、意味がない。
それより、これから先のことを考えるのなら、
新しい身体を自分と認めて生活する方が、無理がないだろうと言う結論に達した。

 ただ、ひとつ気になることがある。
あの時、確かに誰かに押された。それに、別の何かがいた気配。
そいつが今回のことの元凶だったとしたら。もし、もしそうなら‥‥‥‥
他の3人の誰かに、そいつが入り込んでいるんじゃないだろうか?
そして、俺にはそれが、由貴(中身は香奈枝のはず)に思えてならないのだ‥‥‥‥
                                               【終】

【後書き】
 予告して待たせた割には、しょぼい内容だ。萌え場はないし、怖くもない。
 こんなものを書くんじゃなかったと、後悔しています。
 まあ、半日で書いた、ということで大目に見てください。
 作者がおじさんなもので、現代の高校生の日常とは
 ずれているかもしれないが、突っ込みは入れないで頂きたい。

 あっ、この話を読んで、面白そうだと思っても、
 真似しないでくださいね。危険ですから‥‥‥
 あたしも、中学の時、あんな事さえしなければ‥‥‥

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       ます。

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