鳴鯛くんビーチに行く

 

きょうじ作

 

 

 

ある夏の昼下がりのことでした。まだ7月上旬だというのに、ものすごく暑い。家でアイスを食べても、仲々涼しくならない。鳴鯛くんはイライラしながらテレビを見てたら、ニュースで孫島ビチビチビーチの中継をやっていました。ビキニのおねーちゃんが沢山映っていました。

「そうだ、夏は海だよ。ビーチに行こう。」

鳴鯛くんは、急にご機嫌になって、お気に入りの黄色いアロハと短足用バミューダに着替えて、浮き輪を持って家を出ました。 

「♪やっぱ夏じゃわい。」 

鳴鯛くんは、お気に入りの『ヒロシ近藤とおやじシンガーズ』の歌の一節を歌いながら駅まで歩き、電車に揺られてビーチに着きました。 

ビチビチビーチはもう既にすごい人でした。それにしても太陽が暑い。鳴鯛くんは、早速買ったばかりのド派手なビキニパンツに着替えて、周囲の冷たい失笑にも気付かずに浮き輪を忘れてダッシュで海に飛び込みました。 

「うーん、夏は海だよ。海はオッケーオッケーよ。」

海はもうかなりぬるくなってたけど、鳴鯛くんは一年ぶりの海の感触を楽しみました。

調子に乗った鳴鯛くん、どんどん沖まで泳いで行きました。…だけど、鳴鯛くんの足はとっても短いの。高い波が来た瞬間に、鳴鯛くんはすっかり溺れてしまいました。

「うっぷ。しまった。助けてよー。まだ死にたくないよぉぉぉ。」

必死で鳴鯛くんは叫びながら、周囲を見回したのですが、近くには中年のオヤジが一人いるだけでした。しかも、まるで助けてくれる気なんかないみたい。

「うぬう、オヤジめ。今に見ていろよ。ぶくぶく。ボクには秘密技があるんだからな。…あのオヤジに、な、な、なりたーーーーい☆」

鳴鯛くんは遠くなる意識の中で、そう叫びました。すると、鳴鯛くんはオヤジになって、オヤジの心は鳴鯛くんの身体に入ってしまいました。

「ふぉっふぉっふぉ。ボクを助けようとしなかった罰じゃ。」

何故か身体とマッチするオヤジ口調になった鳴鯛くんは、自分の身体に入ったオヤジの方を勝ち誇った様に振り返って、さっさとビーチに向かって泳いで行きました。

「ぬおっ、どうしてワシが溺れとるんじゃ。助けてくれー。」

オヤジの心の入った鳴鯛くんは、ようやく到着したライフセーバーに助けられましたが、かなり水を飲んだみたいで、まっすぐ救護室に連れられて行ってしまいました。

ビーチに上がると、もちろん海水の浮力が無くなる。鳴鯛くんは、身体がとても重いのに気が付きました。だって、オヤジの身体だもん。

「何だよ、この身体。腹は出てるし、毛深いよ。ボク嫌だよ。こんな身体。…でも、ま、いっか。他の身体になればいいだけだし。」

鳴鯛くんはとっても無責任。後先のことなんか考えていませんでした。それが鳴鯛くんなんだけどね。

鳴鯛くんはスケベオヤジに成りきって、きょろきょろと辺りを見回しました。すると、むっちゃ美人な色白のお姉さんが、サングラスをかけてビーチパラソルの下で寝ていました。

「おー、いいじゃん。きれいなお姉さんの身体は、好きですか?ってか。いっただっきまーす。」

オヤジの姿の鳴鯛くんは、近くのベンチに横になって、小さな声で叫びました。

「きれいなお姉さんに、なりた〜い☆」

すると、鳴鯛くんは、その色白女性になってしまいました。

「あ、あれえ?真っ暗だ。…あ、そうか。この娘はサングラスをしてたんだっけ。」

鳴鯛くんは、サングラスを外すと、サングラスを持った手が視界に入ってきました。眩しいほど白い、しなやかな手でした。下を見下ろすと、スレンダーな身体にセクシーな水着がぴったりとフィットしていました。

「やったぜ!極上プリプリだぁ!」

鳴鯛くんは、久々にゲットしたきれいなお姉さんボディに大喜び。

「♪真っ白ーなー真っ白な女の、子ぉ。字あまりぃぃ。」

鳴鯛くんは、昔流行った小泉の曲を、へんてこに変えて歌って踊りながら、ビーチを歩いて行きました。スリムでクールそうな、きれいなお姉さんなら絶対しそうもない、ドジョウすくいみたいな変な踊りをしながら狂った様に歩く鳴鯛くんを、周囲の人たちは目を丸くしながら眺めてました。

オヤジの身体になったお姉さんは、そのまま知らずに寝ていたけど、犬におしっこを掛けられて起きたみたい。

「えー、ちょっと、私の身体、どうなってるの?何なの、この太いウエスト。ヘソにも毛が生えてるわ!いやぁぁぁぁぁぁぁ!」

ビーチには、半狂乱の野太いオヤジ声がこだましたそうな。

 

そのころ、お姉さんボディで「乗り移りジョニー」を歌いながらノリノリで歩いていた鳴鯛くんは、ビーチの真ん中にいくつかステージがあるのに気づきました。イベントをやってるみたい。

面白いこと大好きの鳴鯛くん、早速会場にやってきました。

特設ステージでは、日焼けコンテストをやってました。真っ黒いコギャル達が数人、ステージで黒さをアピールしていました。

「あ、いいなあ。ボク、一度でっかいトロフィを貰ってみたかったんだ。…あ、そうか。優勝できそうな娘になればいいんだ。」

鳴鯛くんは、次の出場を待っている、5人の中で、一番黒くて、しかも可愛い女の子にターゲットを絞りました。

「トースト娘に、なりたーい☆」

いつの流行語やねん。というつっこみを入れてもらえないモヤモヤ感あふれる中、鳴鯛くんはトースト娘になりました。

「おっ、真っ黒もいいねえ。夏はやっぱり日焼けしなくちゃ。」

真っ白なビキニ姿に真っ黒い身体を包んだトースト娘の鳴鯛くんは、思わず腰をくねくねと動かして喜びました。

色白お姉さんになって突然客席に移動したトースト娘は、大混乱。

「えー?ちょっと、どうしてこんなに白いのよ。せっかく日サロに毎日通ったのにぃ。どういうことぉ???」

そうこうする間に、司会者が鳴鯛くんの所にインタビューに来ました。

「…さて、次は5番の彼女です。うーん、黒いですねぇ。それではどのくらい日焼けしたか見せてくれるかな?」

鳴鯛くんは、日焼けコンテストの女の子が焼けていないところをちょびっとだけ見せるのが大嫌いでした。だって、もっと見たくてストレス溜まるんだもん。そこで鳴鯛くん、

「いいよ。」

と一言言うと、まだ10代と思われるその女の子の身体のビキニのブラを、ぺろりんと捲り上げました。白い胸が小刻みに揺れてあらわになりました。

客席からは、一瞬の沈黙の後に、どよめきと歓声がどっとあふれました。

「…むっふっふ。これで優勝間違いなしだね。」

鳴鯛くんは、密かにほくそ笑みました。審査員の結果発表は、その直後にすぐ行われました。

「…結果は.....4番、5番、5番、4番、4番、ということは、優勝は4番!!!」

何と鳴鯛くんは優勝できませんでした。もともと切れやすい鳴鯛くんは、大激怒。

「おい、そんなのってありかよ。ボクの身体が一番黒いじゃん。この娘なんか、全然じゃん。」

鳴鯛くんを怒らせるととんでもないことになります。鳴鯛くんは、優勝した4番の女の子にいきなり掴みかかって押し倒すわビキニを外すわ、制止に駆けつけたスタッフをなぎ倒すわで、ステージ上は大乱闘になりました。でも、やっぱり最後には鳴鯛くんはスタッフ達に取り押さえられて、羽交い締めにされてしまいました。

「く、苦しいよぉ。も、もとのきれいなお姉さんに、なりた〜い☆」

すると、鳴鯛くんはさっきのきれいなお姉さんの身体に復帰して、トースト娘は元の自分の身体に戻りました。

「ちょ、ちょっと、どうなってるの?どうして今度は私が捕まってるの?」

大騒ぎしているトースト娘を後ろに、色白お姉さんの鳴鯛くんは何事も無かった様に歩いて行きました。…え?酷い奴だ?…だって、それが鳴鯛くんなんだもん。

 

 

さてさて、他のステージに来た鳴鯛くん、そこでは「料理の凡人ショー」のテレビ公開録画をやっていました。料理が出来たばっかりで、丁度審査員がこれから試食するところでした。 

「ああ、うまそうだなぁ。お腹ペコペコだよ。」

審査員の料理評論家、岸昼子の皿に、凡人自ら料理を取り分けました。岸昼子はそれを上品に食べ始めました。その、あんかけXO醤ピリ辛TS風トリュフっていう料理、すっごく旨そう。

「も、もう、ボク我慢できないよ。岸昼子に、なりた〜い☆」

鳴鯛くんは叫んでしまいました。すると、鳴鯛くんは岸昼子の身体に、岸昼子はお姉さんの身体になってしまいました。鳴鯛くんの目の前には、豪華な料理が並んでいます。鳴鯛くんは、猛烈な勢いで食べ始めました。呆気にとられた司会者は、岸昼子の鳴鯛くんに恐る恐るコメントを求めました。鳴鯛くんは一言、

「ピリ辛まいうー!」

会場は、どう反応していいか解らずに、ただ呆然。

客席に突然移動した岸昼子は、凄く驚いたけど、きれいなお姉さんボディになった自分に気が付きました。そして身体を見回して、「とてもおいしゅうございます。」と言って、輝く様な笑顔を浮かべて自分の身体を見ながら走り去っていきました。

 

 

その後、岸昼子になった鳴鯛くんは、料理をすっかり食べ尽くしてお腹いっぱいになりました。出番が終わって楽屋に行ったら、もうお腹が苦しくて動けませんでした。

…ふと楽屋で横を見ると、美女二人が鏡に向かって念入りにメークしていました。二人は完璧なボディラインでした。ただ一点、二人とも膝小僧が擦りむけていることを除けば。

「ああっ、もしかして、この二人は....この膝小僧は....化膿姉妹だ!」

そう、鳴鯛くんの隣にいたのは、いつも膝を怪我している、化膿姉妹でした。鳴鯛くんは、前から化膿姉妹の大ファンでした。鳴鯛くんは岸昼子の目をハート形にして喜びました。 

「いいなあ。化膿姉妹。やっぱり妹がいいよな。」

そんな鳴鯛くんにも気付かずに、化膿姉妹は出番になって、二人でステージへと向かって行きました。

鳴鯛くんは、早速きついお腹を押さえながら、こう叫びました。

「化膿姉妹の、妹に、なりた〜い☆」

息も絶え絶えに鳴鯛くんが叫ぶと、鳴鯛くんは化膿妹に、化膿妹は岸昼子の身体になりました。鳴鯛くんが自分の身体を見下ろすと、そこには、グラビアなどでお馴染みのゴージャスボディが.....。

「ああっ、膝がじくじくしているぞ。それに、この重たい巨乳は、化膿妹だあああ!やったぜぇぇ。」

大喜びした鳴鯛くんは、胸に突き出ている化膿妹の禁断の巨乳を、狂った様にメチャメチャに揉みながらステージに向かって走り出しました。ステージに出ても、余程嬉しかったのか、もう恍惚状態になってキャーキャー言いながら胸をいじりまくりました。

岸昼子になった化膿妹は、

「…え?わたくしのお腹、どうしてこんなに苦しいの??」

とか呻いて、その場にバタリと倒れてしまいました。

……ステージでは、ゴージャス美女の新手のサービス?を眺めて呆然とする姉や司会者、観客の存在に、鳴鯛くんはやっと気付いたみたいでした。

『や、やばい。ここは一発、さすがは芸能人と言われることをしなくては。』

鳴鯛くんは、少し焦って一瞬冷静さを取り戻して、観客に向かって言いました。

「化膿姉妹、だっちゅーの。」

ただでさえフェロモン満載の化膿妹ボディのなのに、両腕で挟み込んで前屈みになった鳴鯛くんの豊乳に、客席は釘付けでした。何故か男性客のほとんども、だっちゅーの宜しく前屈みになってしまいました。

そこで鳴鯛くんは更に一発かましました。

「コマネチ」

白くてスラリと伸びた両手を、45度に上下しながら、唖然とする観客を見て、しめたと思った鳴鯛くんはそのままコマネチをしながらステージの袖の方に走り去って行きました。

化膿妹のゴージャスボディをまだまだ堪能したい鳴鯛くん。ゴージャスなドレスを脱ぎ捨てて、楽屋の姿見の前に立って、ゴージャスな下着姿をじっくりと眺めました。

「…やっぱ凄いわ。」

鳴鯛くんは、完璧なボディを見ながらつぶやき、鼻くそをほじりました。

「あれ?鼻くそはゴージャスじゃないじゃん。」

鳴鯛くんはちょっとだけがっかりしました。でも、鳴鯛くんはふともう一つ思いつきました。

「そうだ、化膿妹の胸はこんなに大きいんだから、きっと身体も水に浮くはずだよな。」

鳴鯛くんは思い立ったが吉日男です。早速ビーチに出て、下着姿で大きな胸を上下左右に揺らしながら海に一直線に走って行きました。

海に飛び込んだ鳴鯛くん、早速沖までやって来ました。でも....

「あれえ?あまり浮かないぞ。それに....」

鳴鯛くんは何故か、膝に激痛を感じ始めました。

「ああっ、化膿姉妹は膝が....い、痛いよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!痛いのは嫌だぁぁぁぁ!」

そう。化膿している膝小僧を塩水に漬けてしまって、激痛が走った鳴鯛くんだったのでした。すっかり取り乱した鳴鯛くんは、泳げないのもあって、懲りずにまた溺れてしまいました。でも、そこは芸能人。あっという間にライフセーバーがやって来て、鳴鯛くんを救護室に連れて行きました。

と、救護室にはようやく息を吹き返して元気になった鳴鯛くんの身体のオヤジがいました。

「あ、ボクの身体だ!生きているのがラッキーだぁ♪。ボクの身体に、なりたあ〜い☆」

そして、今度は化膿妹ボディになって目を白黒させているオヤジを残して、鳴鯛くんは何事も無かった様に救護室を後にしたのでした。

 

「ああ、今日もちょっとだけ面白かった。すいかアイス買ってかえろっと。」

 

 

 

おしまい。

 

 

 

 

ども、きょうじです。

いやあ、小説なんてかなり久しぶりに書きましたが、やっぱり難しいですねぇ。短時間でクォリティの高い小説をどんどん書ける作家さんって、改めて尊敬します。

ということで、かなり遅れて登場ですが、ジョーカー充電企画の「納涼祭」参加作品の本作、楽しんで頂けましたでしょうか。昔も「参加することに意義がある」とか言いましたが、まぁそんなところで。

それにしても、ジョーカー師の偉大なる遺産(?)の、鳴鯛くん作品、個人的にもっと読みたい気がしております。もっともっと破壊力のある作品も切望中です。今回、某姉妹が登場とのことで、鳴鯛くんの腹違いの兄弟の「槍鯛くん」をでっち上げて登場させるという構想もありましたが(笑)、多忙とかショパンの事情で見送りとなりました。どなたかやってみたい!という方、書いてみませんかぁ?(とか言って良いのだろうか?)(笑)

最後にベルクカッチョ3世こと藤崎将軍、鳴鯛くんの挿し絵の掲載許可感謝でした。(版権フリーにしたいとのことでした。)それでは、こんなんでも読んでくれてサンキューでした。