「あ〜あ・・・疲れたな。」

僕は背広のまま、ホテルのベットに寝転び伸びをする。会社の仕事で大阪に来たのは三日前。会社の支店を巡ってこちらでの仕事を黙々とこなす日々。なれない土地柄の所為か肉体的にも精神的にも疲れてしまった。明日は一応休み、でも何処にも行きたくない。只眠りたい。


真夜中の使者

作 たかしんに




背広姿で寝入ってしまった僕だが、真夜中、嫌な気配で深い眠りから覚めつつあった。

「ずず・・・・ずず・・・・ずず・・・・。」

「なんだ・・・この音は・・・・・・?」

なにかを引きずるような音だ。どこからだ!?僕は聴覚を目一杯働かせ音源をさぐる。

「ずず・・ずず・・・ずず・・・・ずず・・・・。」

どうも窓の方から音がしている。何の音だろう?ここは都市部地上13階建てだから外にはずって音をたてる『もの』がある訳はないのだが?それにも増して防音完備複数枚の窓ガラス、外から聞こえるとしたら相当大きな音源の筈、いったい!?

研ぎすまされていく六感「何か!」を感じて心拍、呼吸数が右上がりに増え、背筋に冷たいものを感じつつ、カーテンの引いてあるウインドウへと「一歩」また「一歩」と、その距離を縮める。

外界と部屋との視界を妨げているカーテンを掴み、横にはね除けようとしたらウインドウの向こうから



『ばんっ!』




「おげぎゃあああああああああっ!!」



僕は動物的本能で窓から自然に飛び退いた!!

「なんだっ!?なんなんだ今の『ばんっ!』は!?
心拍数、呼吸数共にレッドゾーン!!内臓を口から吐き出しそう。
ベットの上でおののいていると窓からは何も聞こえてこない。さっきの『ばん!』以降なしのつぶて。僕に再び好奇心と云う名の『墓穴掘り!!』が始まる。

そろそろっと窓に近寄り『なにか!』あった場合にそなえて身体は出口扉に向いて、首と手だけが窓に向いている、いわゆる『およびこし!!』で、そ〜っとカーテンを掴み、横にスライドさせ始める。眼前に夜の大阪のネオンがきらびやかに瞬いている。

「ほ〜ぉおおおおおっ!!綺麗な夜景だな〜ぁあああっ!!」

都市独特の覚めた光学視覚的な風景に一瞬目を捕われたが、カーテンが目一杯開かれた事によって遠くの情景から近くの物体へと目のフォーカスが合わされていく。
顔はちょっと遠くの風景に向いているのだが、視線が・・・・窓の・・・まどの・・・ まどのぉおおおおおっ・・・・いかにも『腐りかけた手の平!!」へと注がれた・・・・。

「おああああああっ!!おぁああああああっ!!」

再びベットの上へと逃げた僕の口からは叫び声しかでない。この状況下で『独り漫談!』が出来る奴がいたら今直ぐここに連れて来て欲しい!今ここで雰囲気を和やかにしてもらうから。

「さて、あの腐った手の平の『本体!!』が見える前に逃げよぉ〜と。」

しかしそれは思うだけであって身体は出口扉へ行こうとしない。顔は出口扉へ向くのだけど、身体はベットの上で正座したまま固まっている。

「はやく!はやく行かねばぁあああ!!」 あがきまくる僕に恐怖の第二波が・・・。



『ばんっ!』『ぎゃあああああっ!!』



「おい!おい!おいっ!おぃいいいいいっ!!窓にひっついている手が『二つ!』に増えたぞぉおおっ!!やべ〜よっ!やべ〜よっ!この次は絶対『本体!』がお出ましだぁあああああっ!早く・・はやく逃げなきゃぁあああああっ!」

しかしながら身体は全く動かないが顔だけは動く亀の子の状態に固まっている。あがく僕にまたあの・・


『ずず・・・・・ずず・・・・・・ずず・・・ずずずずずずずずずずずぅうううううっ”』

「おぁあああああああああっ!?」

腐った二つの手の間に、ついに本体である『黒髪!』が見え始めて来た。まさに恐怖映画の上等手段!一気に姿を見せず、一ミリ・・また一ミリ・・と窓下方から上方へとずり上がってくる。


「いやだぁああっ!見たく無いぃいいっ!!」


しかしながら彼女はずりずり這い上がってくる。何故彼女だとわかったかって!?あの黒髪は女以外の何者でもない。それに男だったら腕力に負かして一気に顔を見せる筈だ??顔をなかなか見せないのはやっぱ女の証拠だと思う。どっちにしても見るのは嫌だけど。

うっ!!ついに手と手の間に顔が・・・あるのだけど・・髪の毛が邪魔して顔は見えない。よかった!?と思ったのも束の間、顔が・・・顔が・・・ガラスを素通しして部屋に侵入し始めた。腐りかけた手も、ずたぼろの白い着物の胴体も。身体は今だに動かず、視線も彼女から動かせず、ただ彼女が僕に近づく様を凝視しているだけだった。


「ずず・・ずず・・ずず・・ずず・・。」


長い黒髪、白い着物を床に引きずり、歩伏前進で僕との距離を詰めて来る彼女・・・。ベットが小刻みに上下する・・。


「ぐぁっ!なんでベットが揺れるんだぁっ!?」


なんで揺れるかはわかっていた・・。僕だってポルターガイストエクソシストを見た事があるからね・・。なんてったって目の前にその原因が頼みもしないのに近づいて来てるんだから・・。


「ず・・・すず・・・・ずず・・・・・・」


僕はなるべく彼女を刺激しないよう、可及的すみやかに退散してもらうよう心がけた。


「ね・・君。僕に何の用事があるかわかんないけど、僕が君にできる事は無いから!?あああっ!!そう云う意味じゃなくて・・意味じゃなくて・・僕にお払いなんてできないし、なおかつ霊媒師にも知り合いは無いし・悪いんだけど、ここでお引き取りって事は・・できない・・で・しょうか・・・・・??」


僕のお願いは聞き入れて貰えないようだ・・。彼女の前進は止む事は無い、彼女が僕に近かづくにつれ恐怖が増進する。ベットどころか冷蔵庫や簡易机までどたばた踊り出す。

彼女はついにベットの上にまで這って来て、僕の膝に手をかける!!彼女の手は異様に冷たい。僕の身体をその冷たい手でつかみながら自分の身体を僕に密着させる。冷たい!!うわ・・・いやだ・・・。僕の両肩に彼女の両手がかかる。俯いていた彼女がじょじょに顔を上げていく・・・・。垂れた髪の毛が顔を上げる事で両側に避け、顔面が徐々に露になる。ついに彼女の半分腐りかけの顔面が僕の視界に入ってしまった。息が止まり恐れおののく僕。


「みぃ〜つけたぁ・・・・。」



彼女は半壊の顔でそう言いと、崩れ落ちそうな口を大きく開き高笑いを始めた!!地獄の悪鬼を見る様で、僕は恐怖のあまり意識を失った。



次の日、窓から差し込む日光で目が覚めた。僕は背広のまま寝入ってしまったらしい。昨日の事は夢だったのだろうか!?昨日彼女が侵入してきたウインドウをまじまじ見てみる、そこには二つの手の平の後がくっきり残っていた。僕は大急ぎで荷物をまとめそのシティーホテルをチェックアウトする。

しかし、それで彼女と縁が切れた訳で無い事はこれから起きる出来事ですぐに思い知る事になる・・・・・。


あとがき

こんにちはたかしんにです。夏も近ずいたのでここらで恐怖の小話でもと思いまして書いてみました。僕は大阪のホテルにたまに泊まる事があるのですがそこでなぜか大勢の方々が僕の寝ている廻りを歩いてくれます・・・・・。ホテルを変えても同じ方々がやはり歩いてくれまして・・。なぜなんでしょう・・・・??悪さはされないのですが・・やっぱ気持ち悪いし恐いっす・・・。そんな体験を元にTSF恐怖の夜話を書いていこうと思ってます。宜しくお願いしま〜す。

・このお話は妄想で書かれたので現実にはありえません。

・著作権はたかしんににあります。

・無断改良あっぷはやめてね。