「おはようございます、課長。」

「おっ!早かったな!?辞表持ってきたのか?」

「はい、一応持ってはきたのですが。」

「まさかあの『股子!』を怒らせて会社に居られるなんて甘い考えを持ってるんじゃないだろうな?」

僕の甘い!考えを見透かされていた。なんとかアバロンに縋り付いていたかったが、相当股子!はお冠みたい。僕の唯一会社に残る最終手段が不発に終わった。
とぼとぼと机を片す僕にねぎらいの言葉をかけてくれる者は一人も居ない。去り行く者はもう同僚では無いのだ。元同僚共は僕に見向きもせず、ただ黙々と仕事に追われている。ふんっ!お前等だって遅かれ早かれこーゆー運命なんだよぉ〜!僕は心の中で啖呵を切りアバロンを去っていった。あ〜あ、これからどーしよう。



真夜中の使者3

作 たかしんに



僕は遊び好きなので貯金なんてしない。食費、光熱費、税金、部屋代を除いたお金はみ〜んな女と遊ぶ為に使ってしまう。失業保険が効く内になんとか次ぎの職を見つけなければ・・。

とは云うものの職安に行っても今までやっていた職種の仕事は無く、あるのは時給850円のバイトばっかだった。時給850円では今のマンションの家賃など到底払えない。だけど引っ越しをする金も無い。頼みの綱は遊び友達だけど・・。

「あっ!?僕!ひかる!ひさしぶり〜、えっ!?今?う〜ん、ちょっと会社首になっちゃってさ〜!うん、仕事でヘマしちゃって〜、うん!うん!それで〜ちょっとおかねを・・・『ぶちっ!ぷーぷー!』

携帯にメモリーされている、200件の友達総てに借金を断られた。所詮金の切れ目が縁の切れ目、僕が反対の立場だったら同じ事をしただろう。味方は親だけだ。ここ数年電話もしてないが背に腹は変えられない。

「ぴ・ぽ・ぱ、『ぴんぽんぱんぽ〜ん!この電話は現在使われておりません。番号をお確かめの上もう一度おかけ直しください。』

僕はショックのあまりガイダンスを何回も聞き続けた。すると・・・

『おいっ!!いい加減にしろっ!お前の親は引っ越したんだよー。何回も同じセリフ言わせるんじゃねーぞ!こちとら同じセリフばっか繰り返して疲れてんだっ!!人に頼らないでテメーでなんとかしろなんとかぁあああっ!?じゃあなっ!健闘を祈る、ぶちっ・・・つーつーつー・・』

おいおいおいおいぃいいいっ!?まじっ?NTTのガイダンスってテープじゃなかったの??人が電話口で繰り返し言ってた訳?ま!いいやそんな事、それより親だ。まさか先を見越して親もトンズラ?ぐわぁああっ!たかが数十万の引っ越しの金を出すのが嫌で実家引っ越し??俺一体どうしたらいいんだよぉおおおっ!!まさか段ボールの家の住人に?いやだぁ〜なんとかしなくてわぁああっ!?



「うるさい・・・・・・・・。」



僕の中に勝手に住み着いた住人がたわごとをほざく。

「うるさい?なんて言い種だ!あんたのお陰でこんな状況に追い込まれているんじゃないか?責任ってモノをあんたは感じていないのかぁあああっ!?」

「あんた、あんたってね〜私はきみこ!って名前がちゃ〜んとあるのよっ!名前で呼びなさいよ、名前でぇええっ!第一レディーに失礼でしょうがぁ〜あんた呼ばわりわぁー。」

「いいかい、きみこさん。君は死んだ!んだ。わかる?死んだの。人間じゃないの。身体はもう焼かれてないの!そんな人は直にでもあっちの世界ぞ〜ン!に行きなさいっつーの!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・。」

僕のキツイ口調が効いたのか、きみこは黙ってしまった。ちょっと言い過ぎたかな?とも思ったが、首になった原因はきみこにあるんだからこれ位いっても神様はお怒りにならないだろう。それに早く僕の身体から出ていって欲しいし。



「しくしくしくしく。しくしくしくしく。死苦死苦死苦死苦死苦。」



ふんっ!泣いたって誤魔化されないぞっ!!断固僕の身体から出て行ってもらうんだから!

「せっかく同化できる人を探し当てたって云うのに、こんな惨い仕打ちをされるとは思わなかった・・・・。」

「当たり前だぁっ!さっきも言ったように誰の所為で会社を首になったと思ってるんだ!」

「だってあれはあなたを助けてあげよーとしてあーなったんだし・・。」

「だれがナニを手に変えてくれって頼んだぁー!!ナニさえちゃんと機能してたら首は免れたんだ!責任とれっ責任をぉおおおっ!!」

「ふんっ!わかったわよぉー!なにさ男の癖に男が腐った!ようにグチグチグチグチとぉー。責任とればいんでしょっ!?責任をぉおおおおっ!?」

「身体の無いお前に責任なんかとれる訳ないっしょっ!?もういいから僕の身体から出ていってくれ!」

「嫌っ!!」

「嫌??まだ僕に迷惑かけるつもりなのか?」

「だからー責任取ればいいんでしょ?責任をぉ!ノシ付けて返してやるわよ!それにこの身体から出たらまたあの醜い外見になっちゃうもん!繊細な私には耐えられないの!!」

「おいおいおいおいぃ〜!だったら僕じゃなく違う人をやどり木にしてよぉー僕である必要はないでしょー??」

「あなたじゃないと駄目なの!霊体も血液型みたいに種類があるのよっ。誰にでも憑依するって云う訳にはいかないの。それに外見をまともな形に維持する事ができる霊体は何十万に一人の割合位しかお目に掛れないんだからー。私があなたを見つけるのにどれだけ苦労をしたかあなたにはわからないのっ??」

「・・・・・・・・・・・・・わかる訳ないじゃん・・・・・・。」

「ふんっ!薄情ものぉー。どうせあなたに私を追い出す力なんか無いんだからこれからずぅうううううっと居座らせていただくからねっ!!」

きみこは僕の中から全く出て行く気は無い。それどころかずーと僕の中に居たいって・・。参ったな、あの半壊したずたぼろの女が僕の中に居るのか。若くて美人さんだったらちょっとは嬉しいんだけど・・。

「ふ〜ん!?若くて美人さんだったら居てもいいの?」

「居ていいとは言わないけど、化け物よりは感じが明るくなっていいかな?って。」

「そうなんだ?じゃー鏡見て。」

「鏡ぃいいい?おいおいおいおいっ、またあの恐い姿を僕に見せるつもりじゃないだろうな??僕は怖がりなんだ、絶対嫌だぞっ!!」

「だからーさっき言ったじゃない。外見をまともな形に維持できるって。聞いてなかったの?」

「あっ、そう云えばそんな事言ってたね。じゃあ、あの崩れた外見を普通の人の姿に変えられるの?」

「まー見てのお楽しみ。鏡を見て。」

僕はきみこの言う通りに姿見鏡の前に立った。そこには美形の僕が映っていた。うーん、我ながら云い面してるな。

「ばかじゃん!!自分で云うか普通??」

きみこが僕の心を覗いてバカにする。

「いいからきみこの姿を見せろよっ!!」

「はいはい。」

きみこがそう言うと僕の身体がかっ!と熱くなった。身体の中に炉でもあるみたいに熱を帯びて来る。く・苦しい・・・・。

「き・き・きみこ・・まさか・・僕を殺すつもりか・・?」

「やだ〜冗談言わないでよ。ひかるに死なれたらまたあの酷い外見のまま現世をさまよう事になるんだからーそんな事する訳ないじゃない。『私』の姿を見せてあげるのよ・・・・。」

僕は体内から絞り出される苦痛に身悶えして床に這いつくばる。きみこは僕を殺さないって言ったけど、死んじゃいそうだ・・。苦痛を味わっていた実際の時間は短かったのだろうけど僕にはめっちゃ長い時間に感じた。ある一瞬から『ふっ』と苦痛が消える。

「どう?身体の具合は?」

きみこが話かけてくる。

「ん?やっと楽になった。でもきみこの外見を見るのに何で僕が苦しまなくてはならないんだ?」

「それはねー、私の身体を生前の形に戻すのにあなたの霊体から力を借りてるの。お互いの霊体の相互力で私の身体が作り出されるって訳。わかった?」

「うーん、わかるようなわからないような・・。」

「まっ!言ってもわかないから見てみれば?自分の姿を。」

「えっ!!なんで僕の姿を?」

僕はきみこの言っている事があまり理解できていなかった。鏡を見るまでは。鏡に映った僕は長い黒髪たなびく、ほっそりしながらもグラマスな美女に変貌していた。

「どう?私って美人でしょっ??」

確かに美人だ。もう生きていたら誰よりも先にナンパしたい。僕は見愡れて鏡に近かづき頭をぶつけた。

「痛っ!?」

「あ〜あ、折角あたしになったんだからー傷ものにしないでね!?」

「えっ!?『あたしになったんだから!』えっ!?」

「そういう事!宜しくねー。」

僕は鏡に映る美女を見て呆然とした・・・・。僕はきみこの姿を見せてくれ!とは言ったがきみこの姿にしてくれ!とは言ってないのに。
鏡に映るきみこは僕の心を反映して不安そうにしていた。




あとがき

僕が小学生の頃、自転車で一時間程の所にある沼に仲間とへらぶなを釣りにでかけました。冬のさむ〜い日の出前、沼には霧??が立ち上っていました。みんなと距離を開け釣る準備の最中ふと沼の水面に目をやると白い着物を着た黒髪なが〜いめっちゃ綺麗な女性が立っていました。そこに居るのが当たり前!!みたいな感じだったので全く恐さが無かったです。でもその女性が立っているのは水面・・・。でも何故か恐く無かった・・・・。


・このお話は妄想で書かれたモノなので現実にはありえません。

・著作権はたかしんににあります。

・無断改良アップはやめてね。